まさかストレスで転換性障害を起こすとは当たり前だが予想していなかった。もちろん組織筆頭の戦術予報士からの事前告知もない。実を言えば好んで世話焼きなわけではないからいつか胃が荒れるか円形脱毛が起きるかひやひやしてはいたのだが思っていたよりも早い精神状態の悪化に案外繊細だなと思ったりして。とにもかくにも転換性障害。症状としてある疑似神経症の手足麻痺でなかったことは救いだが失聴に失声ではいろいろと役立たずになる。ただし目は正常なので皮肉にも間接原因である武力介入は十分可能だ。
若造である言うのもなんだがソレスタルビーイングの年齢層は下方にかたよっており、従って人生経験不足者が多く情報追加してコミュニケーション下手ばかりだ。とくに兆候はわるいことに武力介入の要であるガンダムマイスターに顕著であり、ミッション外の会話などまず成立しない。しかしそれではガンダム同士の連携さえ成り立たない(あくまでもガンダム同士の、だ。マイスター同士の連携は時として組織瓦解を誘発する)のでロックオンはミッション完遂を第一に各マイスターにかかわっていたのだが失聴に失声ではそれもかなわないだろう。ボディランゲージにも方言やお国柄というものがある。秘匿義務はもとより知識がなければ考えるまでもなく伝わらない。手話がいい例だ。
転換性障害が発覚して二日。
診察のためにリニアを使ってわざわざ宇宙から来てくれたドクターを最寄りの軌道エレベーターまで送り、しかしそのまま組織支援者所有の無人島にはもどらずになんとなく植物園に寄った。
温湿調整によって経度緯度的に経済特区にしか存在しない四季というものを再現した室内はあざやかなみどり色であふれていて、華やかではなくとも生きているのが目でわかるのが楽しい。
平日ということもあるのか園内に人気はほとんどなく、施設のひとつであるまるいスポンジケーキのようなハウスで休憩がてらに腰を下ろした。やわらかい土から隆起する樹木の根はそれなりに座り心地がよく、なによりガラス張りの天井から透ける空のあおが植物のあおとのコントラストになってうつくしかった。
手で庇をつくって見あげた空はどこまでもあおく、同時にそこは戦場だ。ひらけたフィールドこそロックオンの狩場。敵軍友軍を瞬時に見分ける目は自慢の武器だがなにも聴こえない今は単独出撃以外遠慮したい。狙撃によるサポートは可能でも音声通信はできないだろうし、なにより自身が戦場にある自覚が持てそうにない。ひとは無音であったときこそ発狂する。
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