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接ぎ木

2025.04.07 Mon 「 [PR]
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2008.07.07 Mon 「 桜色前線、回転木馬に乗って現る。original
 福袋にはいっていた濃いグレイのウールコートと去年の三月にもらったチョコレートカラーのキャスケット帽、それからさっき食べたばかりの蒸し鶏とゆでたまごの親子サラダ。
 今の花名をつくっているのはたぶんそんなものだ。
 天気はとりあえず晴れ。もう桜も散りはじめているというのにまだ肌寒くて(そういえば三月に雪が降った)、それなのに足の下のダンス部は薄いトップスとスウェットすがたで拡張されてひび割れた音楽に合わせて身体を動かしている。
「元気だなあ」
 お気に入りのティーオレの紙パックを片手に、高さが胸くらいの手すりに肘をついて曲が終わるまで踊りつづけるグループをなんともなしに眺める。
 元クラスメイトだったり廊下で見たことがあったりする顔はやはり上手い。ライヴに行ったことは一度もないが、ダンス部の有志パフォーマンスを見るのは好きだ。派手な振りがあると素直に感動する。
 そう広くない中庭をぐるりと見わたし、なんとなく昇降口のほうを見やる。正しくは二階の渡り廊下が邪魔していて昇降口は見えないが人通りはあるからたくさんの生徒が行き交っている。
 花名がいるのは部室棟の屋上だ。
 部室棟はコンクリートでできた二階建てで、灰色の豆腐がどんと置いてあるイメージだ。備えつけの階段は錆びが浮いているし、日当たりが悪いので夏でもないかぎり利用者はほとんどいない(ときどき弦楽部が練習していたり男子たちがたむろしていたりするが)。
 しかし今は花名一人で独占状態だ。なかなか気分がいい。自習にレジャーシートを敷いて魔法瓶を持参してぼうっとしているときでもこうはいかない。べつにサボりではないのになぜか教師陣の目が痛いのだ。確実に帰ってこいと言っている。
 もちろん、そんなものを気にする花名ではない。教師のかわし方なんて三年もここにいれば自然と身についた。
「お」
 頬をくるんでいた手をはなし、花名はぱちくりと目をまたたかせた。コートが汚れるのもかまわずに手すりに足をかけてすこしだけ乗り出す。
 かなり大きいはずのエナメルバッグが小さく見えるほど背が高い男子生徒がなぜかアクエリアスの缶をがしゃがしゃ振りながら歩いてきた。
「……なんで振るかなー」
 スポーツドリンクを振ったってまずくなるだけだと思う。
 気づくかな、と薄い期待で手を振った。気づかなければそれはそれでいいのだ。次の数Bはちょうど自習だし、読みかけの本もあるから退屈はしない。
 男子生徒は部室棟の目の前に来てやっと花名に気がついた。ふらりふらりと手を振りつづけているのになにを思ったのか、アクエリアスから口をはなして首をのけぞらせた。
「花名さーん、なーにしてんすかぁ?」
 いつ聞いても通る声だ。だみ声とか言われているのをよく聞くけれどそんなことないと花名は思う。
 声とキャラのギャップならまだかわいいほうで、見た目と中身のギャップが広すぎるやつなんてこの学校にはごまんといる。教師だってそうだ。
 低くて重たいススキの声にぎょっとしたのか、動きの止まった生徒が何人かいた。その中のかわいい女の子は嬉しそうにきゃいきゃい笑いあっている。
 その青春に水を差す気持ちになりながら花名はワンテンポ遅れて返答した。
「ススキを見下ろして手振ってる」
「……あのさー」
 ススキはあきれたように空いている手ですこし長い髪をかき乱す。つづけられる言葉はなんとなく予想がついた。
「おれは鈴木ですってば。一体何回言ったらわかるんすか」
「わかんない」
「わかんないじゃなくて。覚える努力してくださいよ」
「や」
 短く即答する。そうしたらススキは変な顔になって、次の瞬間にはすこしだけ顔を赤くした。
「って、あんたは子どもか!」
「うーん、まだ子どもだよ。だからわたしの後輩のススキも子どもってことで」
 へらりと花名は笑う。
 つっこみ気質のススキをからかうのは楽しい。ときどき鉄拳制裁を喰らうこともあるけれどススキは基本フェミニストだ。熱くなると人目をはばからなくなるのもかまいたくなる原因だ。
「ススキもこっちおいでよ」
 微妙な表情でくやしそうにうなるススキを手招きする。いじめすぎたから来ないかもしれないけれど。
「……うっす」
 かと思えばススキはうなずいて部室棟の影に隠れた。どこまで従順なのだろう。
 ご主人さまと犬について考えながらもう一度中庭を見わたす。ダンス部の何人かがほけーっと花名を見上げていた。思ったよりも目立っていたらしく、今さら恥ずかしくなってきた。

「さらっとひょろっとしてるススキが悪いんだよ」
「なんすかそれ!」
「見た目」
 この学校は比較的明るい頭が多くて、時期が来ると漫画ばりにカラフルになる。花名の新しいクラスメイトや元クラの連中にも金髪やそれに近い色に染めている人たちはたくさんいたが、あれほどきれいに染まった色ははじめて見た。本人はかたくなに地毛だと主張しているが男のくせに細くて薄くてさらさらは反則だ。神さまはあきらかにパーツを与える相手をまちがえている。

「変なかっこ」
 上は黒のフォーマルチックなジャケットなのに、下は迷彩柄のだぼだぼパンツに黒いミリタリーブーツ。
「でも似合ってるよ」
「花名さんも今日かわいいっすよ」
「花名さんはいつでもかわいいよ」
「うわ、出たよ自意識過剰」
「よーしその減らず口を縫ってやろう」
「すんません」




―――――
ぶっちゃけて出身高校のことを書いてみた。
あまりまちがってない。
むしろ多めに真実。
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