接ぎ木
2025.04.07 Mon 「
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2008.07.07 Mon 「
〈海猫食堂〉
」
original
〈海猫食堂〉。今どき探してもそうない店名をしたそこは駅と住宅街の中間地点にひっそりとある。そこは父娘ふたりで切り盛りされていて、店主である父のほうは料理人とは思えないほど強面だ。どことなく日本人離れした雰囲気は日系イタリア人だかららしい。娘のほうも、髪や目の色は日本人に多いそれだが顔立ちや肌色は海の隔たりが感じられる。
この町の住人でもない広哉が〈海猫食堂〉に通うようになったのは職場の先輩に連れられてランチしにきたのがはじまりだ。
広哉は駅近くに門をかまえる予備校の講師をしている。講師と言っても直接教えるわけではなくてあくまでもスタッフのようなものだが大学に通うかたわらでのそういうバイト(だと思う。正式な社員ではないから)は上手くいけば二年後に経験しなければならない教育実習の予行演習になる、とかなんとか。そんなことを酒の席で言われ、誘われるままにこうなった。まだまだ新米だ。
ランチタイムの中盤を過ぎた十四時半、広哉は仕事着であるスーツのまま財布と携帯だけをジャケットのポケットに入れて〈海猫食堂〉の飴色のドアハンドルを引いた。カラン、とドアベルが乾いた音をたてる。
店内は思っていたとおりに閑散としていた。この店はわかりにくい場所に位置しているだけでなく、外観も周囲の風景にぴたりとはまってしまっているせいである意味見えない状態だ。
タウン誌ですら見つけられないという〈海猫食堂〉。こんな穴場を知ることができた自分はラッキーだったと広哉は食後に手をあわせるたびに先輩に感謝する。ここの料理はどれも美味しい。
「いらっしゃいませ」
店主の趣味なのか、ヴァイオリンだかチェロだか、とりあえず弦楽器の静かな曲をBGMにひんやりした声がかけられた。
フェミニンな白のドレスシャツに黒のスラックス、腰巻きのエプロン。本来ならばセーラー服なりブレザーなりに身をつつんで勉学に励んでいるのが年相応な少女の出迎えだ。リコ。〈海猫食堂〉の看板娘だ。なぜ広哉が名前を知っているのかと言えば、単に常連らしい中年の男やOLたちが親しげにそう呼んでいたから。
おたがい顔を覚えたころだ、広哉はラフに片手をあげる。
リコはうなずき、自然な動作でラックからメニューを一冊手に取った。
「おひとりさま、でよろしいですね」
「うん、今日もひとり」
「かしこまりました。では、お好きな席へどうぞ」
淡々とした応対。リコは広哉にメニューを渡し、てきぱきとした動作で厨房のすぐそばにある衝立に引っこんだ。すこしすればミネラルウォーターの注がれたグラスを運んでくるはずだ。ほのかにレモンの風味のそれは、グラスのエッジに指をあててくるりとすれば涼しい音を鳴らしそう。
席数はそう多くない。ふたり掛けのテーブルが四席、カウンタには脚の長いスツールが五つならんでいる。 広哉はとくに迷うこともなく奥まったところにある二人席に腰を落とした。
リコが円形のトレイにグラスを乗せてテーブルにやってきた。ついでにオーダーを済ませてしまおうと広哉はメニューにさっと目を通した。今日のおすすめ、トマト&バジルの冷製カッペリーニ。それとセットでアイスティーを。少女は注文をオーダー票に速記、復唱。不要となったメニューを持ってそのまま厨房にはいっていく。
ひまになってしまった広哉はぐーっと人目を気にした程度で背筋を伸ばす。ぐき、と妙なところが音をたてた。楽な体勢だとしてもこまめに動かなければ身体は凝るものだ。もちろん立ちっぱなしもよくない。ふとすれば講師仲間と立ち話をしていることが頻繁にあるから気をつけないと。
広哉はグラスをかたむけながら店内を見渡す。客は広哉をのぞいてただひとりだ。
カウンタ席の一番奥で金髪の男が煙草をくゆらせながら本を読んでいた。ときどき見かける。そこが指定席だと言わんばかりに堂々といつもくつろいでいるのだ。そう言えば広哉はあの男が食事をしているところを見たことがない。会計をしているところは二、三度くらい。広哉もたいがいのんびりしていくほうだが(そして先輩にこづかれる)金髪はそれ以上だ。いったい何時間、彼はああしてあの席に居座っているのか。
ちびちびとやりながらそうしているうちにカラン、とふたたびドアベルが鳴った。自然と目がそちらへ向く。やってきたのは女性がふたり、そのうちの巻き毛のほうは講師仲間だ。彼女はオフのはずだからこれは本当に偶然。
「あ、ひろやん」
気づいた巻き毛は軽く手をあげ、広哉も同じように返す。彼女は地元人だ。そして常連でもあるらしい。ふたりはリコを待たずに広哉のとなりのテーブルに着いた。
流れではじまった自己紹介を終えたところでリコがメニューを小脇に抱え、片手でトレイを支えていた。広哉たちのそれが一段落つくのを見計らっていたのだろう、タイミングを逃さずオーダーを運んできた。
リコはいらっしゃいませ、と巻き毛たちに頭を下げるとメニューをそれぞれに配した。それから広哉のテーブルにナプキンを敷いてフォークとスプーンを、幾何学模様のコースターには汗をかいたグラスが。最後に、さあどうぞと言わんばかりに置かれた、見目良く盛りつけられたイタリアンカラーが目に涼しいガラス皿。
確認するまでもなくオーダーは以上出そろった。
「ごゆっくりどうぞ」
〈海猫食堂〉ではあまり必要とは思えないそれ(なにせ客のほとんどが一時間以上居座るようなところだ)。しかしそこはあくまでもサービス業、営業側にもルールがあるようだ。たしかに言われないよりかは言われたほうが堂々とのんびりしていける。
リコがとなりのオーダーを受けているのを横目で見ながら広哉は細いパスタをくるくる巻いては口へと運ぶ。ちょうどいい具合にアルデンテ。愛想の悪い店主は世の通例どおりにプロだった。
「リコ」
皿の上があらかた片づいたころに聞こえた低い声に広哉は顔をあげた。
厨房からの短い通路には巻き毛たちのオーダーを運んだばかりのリコ、それと金髪。こうしてならんで立っているのを見るとかなりの身長さだ。リコが小さいのか、金髪が長身なのか。学生時代にバレーボールをやっていた賜物でいちおうはのっぽ組に分類される広哉は地味に落ちこんだ。モッツァレラチーズとトマトを一緒くたに噛みつぶす。
「どしたの。世界の広さでも知ったような顔して」
「……どんな顔すか」
「今のひろやんみたいな顔よ」
「んな子どもじゃないっす」
「十代がなに言ってんの。青い青い」
―――――
復活とガンスリにハマっていたころ小説オンリー部誌に提出しようとか思っていたよくわからんブツ。
読みなおしてみてつづきを書くことは不可能と気づきました。
主人公が予備校スタッフなあたり受験期だったことがうかがえます。
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